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平戸にポルトガル船が来航

大航海時代に入り、西洋諸国がこぞって大海原へ乗り出した16世紀半ばには、ポルトガル船が平戸に来港。日本における西洋諸国との最初の貿易となる「南蛮貿易」は、この平戸から始まりました

また、ポルトガルの対日貿易は、キリスト教イエズス会の布教活動も兼ねていました。ポルトガル船が平戸に来港したことを知ったフランシスコ・ザビエルは、布教のため訪れていた鹿児島から平戸へ移ります。しばらく滞在して布教活動を行ったことが、長崎におけるキリスト教布教の礎になりました。当時の平戸は、海外貿易とキリスト教布教の中心地という2つの役割を果たすことになります。

王直はポルトガル船と平戸をつなぐキーマン

そもそもポルトガル船が平戸に入港するようになったきっかけには、当時中国や朝鮮の沿岸部で活動した海賊集団「倭寇」の存在が大きく関係していました。倭寇は、14〜15世紀初期にかけておもに朝鮮半島沿岸を襲った前期倭寇と、15世紀後半〜16世紀に活動した後期倭寇に分けることができます。前者が日本人を中心とした集団だったのに対して、後者を構成したのはおもに中国人でした。

その後期倭寇の頭目のひとりで、種子島への鉄砲伝来にも一役買ったとされる中国安徽(あんき)省出身の王直(おうちょく)が、ポルトガル船と平戸をつなぐキーマンになります。

倭寇の進攻ルート

倭寇の進攻ルート
長崎県文化振興課の資料を元に作成

中世の東西と南北の交易ルートが交差した平戸。その交易で大きな役割を担った後期倭寇の中でも、王直は代表する頭目でした。

松浦隆信の信頼へて平戸へ移り住んだ王直

当時、中国を統治していた明は、民衆が許可なく外洋に出ることを禁じる「海禁政策」をとっていました。しかし16世紀になるとそれを破って密貿易を行う者が増加。王直もこの密貿易に従事した海商のひとりで、日本だけでなくシャムやマラッカ、ルソン、安南といった南洋まで広域にわたって往来を繰り返していました。そして、輸出が禁止されていた硫黄や生糸、真綿などの取引によって、わずか5〜6年で巨万の富を得たといわれています。

ところが、天文17(1548)年、倭寇の根拠地のひとつになっていた双嶼(そうしょ)港が、明政府の攻撃を受けて壊滅。このとき双嶼に住んでいた王直は、1540年代前期からつながりがあった日本の五島に逃れます。その後、莫大な利益を生む密貿易の仲介という立場で平戸領主の松浦隆信の信頼を得て、領内に居宅を与えられた平戸に拠点を移すことになりました。

松浦隆信にポルトガルを紹介した王直

こうして王直は、同時期に双嶼港を拠点として密貿易を行っていたことで付き合いがあったポルトガルを平戸に招き入れ、松浦隆信との交易を仲介。新たな貿易の拠点を探していたポルトガルと、平戸に海外との貿易拠点を誘致したい松浦隆信との利害が一致し、天文19(1550)年、平戸に初めてポルトガル船が入港することになります。これを機に、以後十数年間、平戸は国際交流の玄関口として繁栄していきました。

じつは鹿児島から平戸へザビエルを案内したのも、すでに平戸に居を構えており、ポルトガルとも親しかった王直、もしくはその配下の者だったといわれています。王直がいなければ、ポルトガル商人やザビエルが平戸を訪れることはなく、中世の日本は史実とは違った世界になっていたかもしれません。

平戸港周辺

平戸港周辺

17世紀前半になるとオランダやイギリスとの交易で栄えた平戸。市内各所には、当時の様子を感じさせる史跡が数多く残されています。

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・島原鉄道は奇跡のローカル線!?
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・ポルトガルが平戸で貿易を始めたワケ
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・龍馬を襲った「いろは丸事件」の真実
・倒幕の裏には大村藩士の活躍があった
・人口約4000人の村が一変!? 寒村だった佐世保が大変貌したワケ

…など

Part.4 長崎で生まれた産業や文化

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・世界遺産に登録された日本造船業の原点! 三菱長崎造船所のあゆみ
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