西武山口線を賑わせたSL列車
その後、1972(昭和47)年に新潟県の頸城(くびき)鉄道、翌73年に岡山県の軽便鉄道である井笠(いかさ)鉄道からドイツ・コッペル社製の蒸気機関車を借入れ、SL列車の運行を開始すると、これが大人気に。蒸気機関車は小型で愛らしく、「謙信号」「信玄号」と命名されて幅広い世代に親しまれました。
西武山口線には、ふたつの遊園地のほか風光明媚な狭山湖や多摩湖もあり、観光客や遠足に訪れる小学生や幼稚園児にも利用され、駅や列車には歓声があふれていました。SL列車とともに「おとぎ列車」も引き続き運転され、のちには台湾の製糖工場で使用されていた蒸気機関車も入線。西武山口線は大いに賑わいました。
蒸気機関車やバッテリー機関車もさることながら、牽引される客車にも風情や特徴がありました。SL列車に使用されたオープンデッキの木造客車は井笠鉄道の車両。ダブルルーフと呼ばれる二重屋根で、狭い車内に長手の座席が並んでいました。オレンジ色の車体はいかにも軽便鉄道で魅力的でした。
西武山口線「おとぎ列車」の本来の姿とは
「おとぎ列車」の客車は一見、遊戯施設のような車両ですが、台車は戦中の旧・日本陸軍、鉄道連隊の97式軽貨車の流用という異色の素性をもちます。この貨車は、軌間の異なる戦地の鉄道路線に対応できる軌間可変(フリーゲージ)構造の台車をもっており、現在のフリーゲージトレインの始祖にあたる大変貴重な車両でした。西部山口線の97式の台車は、戦後に放出されたものが部品流用されたもので、戦地で働いていた車両が時を経て平和的な「おとぎ列車」に姿を変えたのです。
西武山口線の現在
牧歌的で観光路線色があった西部山口線ですが、西武球場(現・西武ドーム)の開設により、そのアクセス路線へと生まれ変わりました。1984(昭和59)年5月、工事のため運行を休止しナローゲージ路線から転換。駅や路線の一部を廃止し、翌年4月に現在の新交通システムとして再出発しています。
2020(令和2)年の西武山口線
西武遊園地駅と西武球場前駅を結ぶ現在の山口線。1985(昭和60)年、新交通システムに生まれ変わると同時に、途中駅として遊園地西駅が設置されました。
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