目次
塩原カルデラの地形形成の過程
今から数十万年前、高原火山群が活動を開始し、塩原カルデラで巨大噴火が起きます。地下のマグマが流出して支えを失った地盤が陥没し、そこの南半分を高原火山から流れ出た新しい溶岩が埋めたことで、現在見られる三日月形のカルデラ地形ができあがったという説が有力です。
やがて河川が流入して雨水も溜まり、南北約3㎞、東西約5㎞の巨大なカルデラ湖が出現しました。地質学の世界で「古塩原湖」または「塩原化石湖」と呼ばれるものです。そこに周囲の山から流れ込む砂礫(されき)が堆積し、のちに塩原湖成層として知られる地層となりました。
塩原カルデラ湖は植物化石の宝庫
塩原湖成層は我が国屈指の植物化石の宝庫です。これまで170種を超える植物化石のほかに、昆虫やカエル、ネズミといった小動物の化石も発見され、「木の葉石」の名前でよく知られています。特にカルデラ中心部付近の泥岩層から採れる化石は、種類が豊富で保存状態も良く、植物の葉脈から動物の体毛までくっきり鮮明に見えます。
木の葉化石園
- 住所
- 栃木県那須塩原市中塩原472
- 交通
- JR宇都宮線西那須野駅からJRバス塩原温泉行きで45分、終点でゆーバス上三依塩原温泉口駅行きに乗り換えて4分、木の葉化石園入口下車、徒歩3分
- 料金
- 入園料=大人500円、小人300円/化石探し体験=600円/(20名以上の団体は大人450円、小人270円)
塩原カルデラ湖の化石から当時の植生を読み解く
1905(明治38)年の開園という「木の葉化石園」の敷地内では、実際の塩原湖成層の地層とそこから採掘されたセピア色の美しい植物化石の実物を見ることができます。
化石から当時の植生を読み解くと、湖周辺にはブナ、イヌブナ、オノオレカンバ、クリ、ミズナラ、ミズメなどからなる落葉広葉樹林が広がっていて、これらは現在の塩原地域の植生とほとんど変わりません。そのため当時のこの地の気候は、現在とほぼ同じだったと推測されています。太古の塩原の記憶を鮮明に今に伝えてくれるのが、木の葉石なのです。
古塩原湖(塩原化石湖)の位置のイメージ図
現在の塩原盆地の真ん中を西から東へ箒川(ほうきがわ)が流れており、川に沿うように、三日月形をしたかつての古塩原湖がありました。中塩原の「木の葉化石園」がある場所は湖の中心部に当たり、その周辺の厚い泥岩層から保存状態の良い植物化石が多く見つかっています。
塩原カルデラ湖を実感できるスポット
余談ですが、塩原盆地がカルデラ湖だったことを実感したければ、塩原街道から木の葉化石園へ向かう県道266号に入り、土平(どだいら)園地を目指すとよいでしょう。この県道は、昭和30年代後半、塩原と那須を結ぶ「塩那(えんな)スカイライン」として総延長65㎞、最高で標高1700m地点を走る日本有数の観光用山岳道路として計画されました。しかしバブル崩壊の影響などにより、一部区間を除き廃道とする決定がなされた県道です。幻となった天空の道路から、眼前の大パノラマを見てみましょう。視界いっぱいに広がる高原火山群、下方に目を移すと細長く開けた空間の底にへばりつくように、塩原温泉郷が小さく見えます。はるか遠い昔、紛れもなくそこは湖だったのです。
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