葛生は石灰の一大産地! 採掘の歴史も長い
海なし県の栃木県にも、太古の海からの贈り物が眠っています。しかもとびきり上等なものです。そこは足尾山地の南部に位置する佐野市葛生(くずう)地区で、付近には石灰岩やドロマイト(苦灰岩(くかいがん))からなる「鍋山(なべやま)層」が分布しています。採掘の歴史は古く、今から420年前の1596(慶長元)年、土地の代官が葛生山中の石を焼き、粉にしたものを大名に献上したとの伝承があります。民間では藍染めの補助や田畑の肥料として重宝され、「野州石灰(やしゅういしばい)」という名で江戸でも知られていました。
葛生の石灰の産出量は日本有数!
今日では、土木建築、化学工業、農業と多方面に利用される石灰石ですが、とりわけ葛生地区から栃木市鍋山地方に分布する石灰石鉱床は大きく3層からなる特徴的なもので、上部石灰石層-ドロマイト層-下部石灰石層がきれいに重なり合い、延長30㎞にわたり分布しています。鉱床の厚さは約350m、推定埋蔵量がおよそ20億tとされ、日本有数の産出量を誇っています。
葛生の化石といえば「ニッポンサイ」
そして、葛生の石灰岩砕石場では、思わぬ副産物も産出しました。ナウマンゾウやニッポンサイといった、日本が大陸と地続きだった新生代第四紀更新世の頃の化石です。石灰岩の雨水に溶け地下水に浸食されやすい特性上、石灰石鉱床では裂け目や割れ目、洞窟ができやすいのです。そこに雨水といっしょに土砂が流入し、さらに動物の骨や死骸などが流れ込むと、長い年月をかけて化石となります。特にニッポンサイの化石は、ほぼ全身の骨がそろった非常に珍しい状態で見つかっており、発見の様子は東武佐野線葛生駅近くにある葛生化石館で見ることができます。
葛生の化石~幻となった「葛生原人」~
1950(昭和25)年、葛生の洞窟堆積物から発見された生物の骨の化石は、当時、東日本で唯一の旧石器時代(更新世)の人類と考えられ、「葛生原人」として大いに世間の注目を集めました。平成になり国立科学博物館や国立歴史民俗博物館、お茶の水女子大学の協力で骨の形態や年代が再検討されると、一部は動物の骨で、一部は人の骨ではあったのですが放射性炭素年代測定法で14~17世紀のものであることがわかりました。人々に夢を見させてくれた葛生原人は、果たして幻の原人となったのです。
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Part.1 地図で読み解く栃木の大地
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Part.3 栃木で動いた歴史の瞬間
・なぜ「那須」が付く市や町が多い?
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・平将門を討った豪傑・藤原秀郷とは何者か?
・足利氏には2つの流れがあった! 鎌倉幕府と下野御家人の関係
・名族宇都宮氏の栄枯盛衰
・ザビエルやフロイスも讃えた「坂東の大学」足利学校
・江戸幕府最大の聖地・日光東照宮創建
・廃藩置県、そして栃木県誕生!
・「一の宮」が2つ? 日光二荒山神社と宇都宮二荒山神社
・不毛の原野が酪農王国に! 那須野が原の大開拓
Part.4 栃木で生まれた産業や文化
・木綿、紬、絹織物、麻…栃木は織物の名産地
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・半世紀にわたって生産量日本一!! 栃木はなぜいちご王国になった?
・関東平野が工業誘致にぴったりだった? 宇都宮は新たなものづくり都市へ
・「それって栃木?」県名抜きで知名度の高い観光名所
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