富山では北陸新幹線開業で黒部が独り勝ちに
しかし、富山県の自治体ごとに視点を移してみると、意外にもはっきりと明暗が分かれます。北陸新幹線開業にあたり、富山と高岡が停車駅となるのは当然であったのですが、さらに新しく誕生したのが黒部宇奈月温泉(くろべうなづきおんせん)駅です。このため、新川(にいかわ)地域で黒部は独り勝ちといわれています。2016年には、YKKが本社機能の一部を東京から黒部に移転させたことも話題に。2015年の国勢調査によると、市の人口は減少傾向にある一方で世帯数は増加傾向にあり、2019年には出生率が5年ぶりに前年より増加という結果になりました。
富山の北陸新幹線開業で明暗がわかれた地域
黒部に新幹線駅が置かれたことの背景にはこのYKKの存在が大きいといわれています。もともと黒部にはYKKの主要拠点工場があったからです。しかし、もう一つ、停車駅候補として挙がっていたのが魚津です。魚津駅はかつて新潟方面に接続し、特急「はくたか」や「サンダーバード」が停車していました。ですが北陸新幹線開業後には乗り換え需要がなくなり、東京からの客は新幹線で素通り。2018年には、1日の平均乗降客数は北陸新幹線開業前と比べて約15%落ち込んだというデータもあります。
新幹線新高岡駅の問題
一方、新幹線が停車するからといって順風満帆ではないのが高岡。新幹線開業にあわせて新高岡駅が誕生したのですが、この新高岡駅は在来線停車駅の高岡駅とかなり離れています。約1.5㎞と、頑張れば徒歩で移動も可能ではありますが、実際にはシャトルバスやタクシー、あるいは隣接するJR城端線の新高岡駅を利用して移動することになるため、新高岡駅で降りて在来線を利用する場合は少々不便となっています。
新幹線新高岡駅の問題:駐車場
さらに、地元の人が北陸新幹線を利用する際にも問題があります。本来なら新高岡駅の駐車場に車を停めたい人が多いはずですが、開業直後から駐車場不足があらわになり、2016年にはそれまで1日無料だった新高岡駅の平面駐車場が有料になりました。高岡駅近くの駐車場を新幹線利用者に無料で提供する代替措置もとられますが、結局は高岡駅から新高岡駅までの移動が発生してしまいます。
新幹線新高岡駅の問題:「かがやき」が平日は素通り
加えて、最速の列車「かがやき」は、平日は新高岡駅に停車しないというデメリットも。北陸新幹線に乗るなら、「かがやき」が必ず停車する富山駅まで在来線で行って北陸新幹線に乗った方が楽なのです。
なぜ初めから高岡駅に新幹線駅を併設しなかったのか、という疑問が湧きますが、高岡駅周辺の用地を確保できなかったからだという説があります。
富山の北陸新幹線開業と公共交通の充実
北陸新幹線にまつわるエピソードは悲喜こもごもですが、一方で、富山県全体の地方鉄道や公共交通への意識の高さは評価されるべき点です。北陸新幹線開業によって公共交通はマイナスされていくのが一般的ですが、富山はむしろプラスしているのです。
富山は北陸新幹線のすべての駅に在来線が乗り入れている
まず、富山の新幹線駅にはすべて在来線が乗り入れています。そんなことは当たり前だと思われるかもしれませんが、鉄道駅が併設されていない新幹線駅は意外と多くあります。新幹線駅は国の財源でつくられますが、在来線駅は各自治体でつくらなければいけないからです。つまり、在来線駅がつくられたということは、それだけ自治体が公共交通を重んじている証拠。しかも新高岡駅と黒部宇奈月温泉駅は、それぞれ新幹線と交差する鉄道に駅はなかったのですが、各自治体が経費を負担してわざわざ設置したものなのです。
富山は北陸新幹線の駅へのアクセスが便利
さらに、新幹線駅へのアクセスも向上しています。たとえば、朝日町や入善町、魚津市などは、新幹線駅への特別なバスやタクシーを走らせています。事前予約が必要なものもありますが、新幹線の時刻に合わせて運行されているため、便利な交通手段です。各市町村庁舎の最寄り駅を起点とすると、バスや鉄道を使った新幹線駅までのアクセス時間は平均17.2分。これを東京に置き換えると、17.2分より所要時間が短いのは都心近くの区のみで、渋谷や池袋から東京駅への所要時間とほぼ同じです。地方においてこれだけの利便性を実現しているのは、新幹線駅から離れたエリアの住民も置き去りにしないという、自治体の努力の賜物といえるでしょう。
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・黒部ダムが大電源を生み出すまで
・崩壊を続ける立山カルデラ
・極東の氷河の南限は立山! 国内初の氷河認定とライチョウ
・神秘の光景! 魚津の蜃気楼と雨晴海岸の気嵐
・2000年前に形成された魚津埋没林
・富山の水がおいしいヒミツ
・立山の地下には「何か」がある! 活断層はあるのに地震が少ない理由
・富山湾のホタルイカはなぜ有名?
…など
Part.2 富山を駆ける充実の交通網
・北陸新幹線開業による光と影
・河川敷にある富山きときと空港
・SDGs未来都市に選定 ライトレールが象徴するまちづくり
・伏木港は神戸港に憧れた男の夢
・立山の観光ルートは1つじゃない? 一般開放が待ち遠しい黒部ルート
・マッターホルンの麓町から着想 低速電気バスEMUと宇奈月温泉
・鉄オタ集結地! 富山県は公共交通の宝庫
・V字峡谷を走るトロッコ電車
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・富山県成立までの複雑な歴史/越中の英雄・佐々成政の人物像
・焼け野原と化した富山大空襲/富山の遺跡&古墳は個性派ぞろい
・放生津に存在した亡命政権
・越中の伊能忠敬 射水出身の測量家・石黒信由
・越中の黄金郷 加賀藩極秘の「越中の七かね山」
・北陸近代医療の父・黒川良安
・世界遺産は加賀藩の軍事工場 五箇山でおこなわれた塩硝づくり
…など
Part.4 富山で育まれた文化や産業
・「越中おわら節」はなぜ有名?
・財政難を立て直した富山の売薬
・布教のためのテキストだった 曼荼羅から読み解く立山信仰
・秀吉も称えた伝説の刀工・郷義弘
・売薬商人は危ない橋を渡っていた? 薬の密貿易が生んだ昆布文化
・有名な創業者も多く輩出 富山県民は倹約家で働き者
・ジャポニズムの立役者・林忠正
・アニメの聖地が多い富山県
・瑞泉寺再建から始まった井波彫刻
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