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馬場はるの嫁ぎ先と当時の富山の教育環境
富山の女性たちは、たびたび革命を起こしてきました。教育の分野で名が残るのは、泊町出身の馬場はる。馬場はるの嫁いだ家は、東岩瀬で江戸末期から海運業を営む馬場家。しかし、舅や夫を早くに亡くし、家業の経営や財産管理を馬場はるが引き受けることとなりました。
長男・正治が富山中学校(現県立富山高校)から慶応義塾へ編入する前、受験勉強に苦しんでいた姿が馬場はるの頭にはありました。当時、富山県には高等学校がなかったため、高校に進学するには、石川県や新潟県、もしくは東京などの大都市へ行くほかなく、進学後もその家族にとっては経済的な負担が強いられるという状況でした。
馬場はるの寄付金によって富山県に初の高等学校が設立
そこで馬場はるは、高校創設に使ってほしいと富山県に150万円(米価で推計して現在の20億円程度)以上を寄付。富山県はこの寄付金をもとに、富山県内で初めての高校となる旧制富山高校を設立しました。大正13(1924)年に開校したこの高校は、現在の富山大学の前身です。旅費や下宿代のかかる他府県へ行かずとも高等教育を受けられるようになったことは、富山県の教育史において大きな意味をもちます。馬場はるは開校後も寄付を続け、明治時代の文豪ラフカディオ・ハーンの蔵書をその遺族から買い取って同校へ寄贈。現在、この貴重な蔵書は「ヘルン文庫」と名付けられ、富山大学附属図書館に保管されています。馬場はるはこれらの功績を称えられ、昭和36(1961)年に名誉市民の称号を与えられ、女性初の富山市名誉市民となりました。
富山の女性たちの現代の活躍:上野千鶴子氏
現代においても、富山の女性たちの活躍には目をみはるものがあります。上市町出身の上野千鶴子(うえのちづこ)氏は、フェミニズムの先駆者として知られる人物です。2019年の東京大学学部入学式で述べた祝辞では、東大や四年制大学において女子の入学者の比率が低いこと、学生生活や大学組織の中でも未だ性差別が根強く残っていることを指摘。また、新入生に対し、自らの能力を自分のためだけではなく、機会不平等が残る社会において恵まれない人々を助けるように呼び掛け、大きな話題となりました。
富山の女性たちの現代の活躍:惣万佳代子氏
赤十字国際委員会が看護活動の功績を称える世界最高の記章「フローレンス・ナイチンゲール記章」を2015年に皇后(現在の上皇后さま)さまから授与されたのは、惣万佳代子(そうまんかよこ)氏です。看護師として長年勤務してきた惣万佳代子氏は、高齢者が「家に帰りたい」と願っても叶わず、施設で亡くなってしまう状態に疑問を感じていました。そこで勤務先の病院を退職し、高齢者だけでなく、子どもや障がい者などの誰もが利用できるデイケアハウス「このゆびとーまれ」を開所。この共生型福祉施設は「富山型デイサービス」と呼ばれて全国へ広がり、2000カ所以上もの施設が存在します(2017年時点)。この需要の高さは、縦割りの福祉ではなく誰もがともに暮らせる地域共生への関心の表れでもあり、惣万佳代子氏の活動は福祉において変革をもたらしたといえます。
富山の女性は就業率の高さが際立つ
勤勉で倹約家という県民性で知られる富山県ですが、女性の就業率の高さも際立ちます。2015年に厚生労働省がおこなった「賃金構造基本統計調査」によれば、富山県内一般労働者の女性平均勤続年数は全国1位の11.6年という結果に。総務省の「就業構造基本調査」の2017年版では、共働き世帯の割合を示すランキングで全国3位となりました。さらに、「家計調査」(2018〜2020年)における冷凍食品への支出金額は富山市が全国1位という結果もあり、働きながら家事に追われる女性の多さが反映されています。
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富山県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。富山の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。地図を片手に、思わず行って確かめてみたくなる情報満載!
Part.1 地図で読み解く富山の大地
・立山連峰との高低差4000m!「きときと」ぞろいの富山湾
・黒部ダムが大電源を生み出すまで
・崩壊を続ける立山カルデラ
・極東の氷河の南限は立山! 国内初の氷河認定とライチョウ
・神秘の光景! 魚津の蜃気楼と雨晴海岸の気嵐
・2000年前に形成された魚津埋没林
・富山の水がおいしいヒミツ
・立山の地下には「何か」がある! 活断層はあるのに地震が少ない理由
・富山湾のホタルイカはなぜ有名?
…など
Part.2 富山を駆ける充実の交通網
・北陸新幹線開業による光と影
・河川敷にある富山きときと空港
・SDGs未来都市に選定 ライトレールが象徴するまちづくり
・伏木港は神戸港に憧れた男の夢
・立山の観光ルートは1つじゃない? 一般開放が待ち遠しい黒部ルート
・マッターホルンの麓町から着想 低速電気バスEMUと宇奈月温泉
・鉄オタ集結地! 富山県は公共交通の宝庫
・V字峡谷を走るトロッコ電車
…など
Part.3 富山の歴史を深読み!
・江戸時代は鮎だった! 駅販売で広がったます寿し
・富山県成立までの複雑な歴史/越中の英雄・佐々成政の人物像
・焼け野原と化した富山大空襲/富山の遺跡&古墳は個性派ぞろい
・放生津に存在した亡命政権
・越中の伊能忠敬 射水出身の測量家・石黒信由
・越中の黄金郷 加賀藩極秘の「越中の七かね山」
・北陸近代医療の父・黒川良安
・世界遺産は加賀藩の軍事工場 五箇山でおこなわれた塩硝づくり
…など
Part.4 富山で育まれた文化や産業
・「越中おわら節」はなぜ有名?
・財政難を立て直した富山の売薬
・布教のためのテキストだった 曼荼羅から読み解く立山信仰
・秀吉も称えた伝説の刀工・郷義弘
・売薬商人は危ない橋を渡っていた? 薬の密貿易が生んだ昆布文化
・有名な創業者も多く輩出 富山県民は倹約家で働き者
・ジャポニズムの立役者・林忠正
・アニメの聖地が多い富山県
・瑞泉寺再建から始まった井波彫刻
…など
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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

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