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平安時代の文化~恋愛と結婚

平安貴族の女性は滅多に外出せず、家族以外の男性に顔を見せません。そのため平安貴族の恋は噂を耳にするところから始まりました。

宮廷社会では娘たちの容姿、気立ての良さや和歌の教養など様々な評判が、女房同士の噂話などによって伝わります。貴族たちはこうした噂から想像を膨らませて恋心を募らせました。
また、垣根の間から女性の姿を盗み見る垣間見(かいまみ)や、車の端から見える女性の着物のセンスから恋に落ちることもありました。

一方、後宮は女房と貴族が接触する環境から、身分の高い男女の出会いの場となったのです。

平安時代の文化:恋愛はラブレター文化?!

交際は男性が女性に和歌を書いた手紙を送り、好意を伝えることから始まります。手紙を何度か交わした末、愛が深まれば、男性が夜、女性の邸宅や部屋へ忍び込んで想いを遂げました。
明け方に名残惜しそうに帰宅し、甘い後朝(きぬぎぬ)の歌を女性に送るのも交際のマナーでした。

やがて両親公認の仲となると、堂々と男性が女性の家を訪れて一夜を共にし、3日続けて男性が女性のもとに通えば結婚が成立となりました。
しかし、当時は夫が妻の家に通う妻問婚(つまどいこん)の形式で、正妻以外の妾の存在を許容されていたとはいえ、あくまで一夫一妻制。妻となった女性と同居し、離婚するとすべてを失ったのです。

平安時代の文化:貴族の恋愛の出会い3パターン

平安の宮廷社会では様々な噂が飛び交っており、悪口のみならず容姿や教養の評判なども人づてに聞いました。平安貴族は聞こえてくる噂で想像を膨らませ、恋に落ちていくのです。


平安貴族は、「美しい姫君がいる」「和歌のうまい姫君がいる」「気立てのいい姫君がいる」など、どこからともなく聞こえてきた女性の風評に心を奪われ、姿を見る前に恋に落ました。「字がきれいで和歌がうまいらしい」「黒髪が美しいらしい」「ファッションセンスがいいらしい」など噂は様々。

噂の媒介となったのは姫君に仕える女房たち。他家との情報交換も活発で、女房たちが仲立ちとなる恋も多かったのです。女房を介しての出会いも『源氏物語』にたびたび登場します。

垣間見
思いを募らせた男性は、憧れの女性をひと目見ようと、垣根の間などから女性を盗み見ます。ふとしたことから姿を見てしまうこともあったようです。『源氏物語』では宇治に赴いた薫が大君、中の君姉妹を垣間見て恋に落ちる場面があります。「容姿がタイプ」「着物の色がハイセンス」などと思ったのかもしれませんね。

宮仕え
『枕草子』や『紫式部日記』などには後宮に訪れた貴族とのやり取りが見られます。日本の後宮は貴族の上流貴族の出入りが許されており対応する女房との間に恋が芽生えることもたびたびありました。そのため、後宮は出会いの場でもあり、玉の輿を目当てに宮仕えをする女房もいました。

平安時代の文化~具体的な婚活事情

恋に落ちた貴族は文通によって愛を深めていきます。相性と共に教養の深さ、機転が試されながら愛を深め、やがて男女は結婚へと進んでいくのです。恋愛のやり方から、結婚へ、ステップを踏んで見ていきましょう。

平安時代の文化:結婚までの恋愛ステップ

恋愛 STEP 1
まずは男性から女性への好意を伝える手紙を送ります。和歌を添えて教養とセンスをアピールすることを忘れません。

※情熱的な和歌で愛を伝えることがポイントです。返事があれば脈あり。ただし、意中の相手からの返事はおおよそつれない内容がほとんどです。

恋愛 STEP 2
女性側は手紙のやり取りのなかで相手のセンスや教養を判断し、その後も何度も手紙をやり取りして愛を育んでいきます。

※当初の手紙は意中の相手ではなく侍女や両親の代筆であることも多く、両親のお眼鏡にかなう相手でなくては結婚も許されませんでした。

恋愛 STEP 3
やがて手紙のやり取りの末、女性がその気になったら家や部屋へ入ることを許す手紙が送られ、成就のときを迎えます。

恋愛 STEP 4
愛を確かめ合った翌朝、男性は帰宅せねばなりません。この時の別れを「後朝の別れ」といい、帰宅後に手紙を贈り合う習慣がありました。

※家に帰った男性は、朝のうちに昨夜の甘い時間を和歌に詠んで女性に贈ります。手紙を待ちわびる女性も気が気ではありませんでした。手紙を送らないことは「一夜限りの関係である」、すなわち遊びであったという非情な通告となりました。

平安時代の文化:結婚ステップ

ふたりの仲が認められると結婚へのステップが始まります。

結婚 STEP 1
女性側の家族の了解を得ると結婚への日取りが決められます。その後、3日連続して通うことで、結婚が成立しました。初夜は男性が昼のうちに女性の家に手紙を出し、夜になってから女性の家を訪れます。

※男性が持ってきた松明を女性の家の蝋燭に灯し、両家の結びつきを示していたようです。

結婚 STEP 2
母屋に通された婿は几帳越に妻となる女性と顔を合わせ、契りを結びます。これが3夜にわたり繰り返されます。

※女性側の両親には、結婚の成立を願って男性の靴をふたりで抱きしめて眠る習慣がありました。

結婚 STEP 3
3日目を迎えると結婚が成立。新郎は新婦の家が用意した装束を身にまとい、枕元に置かれた「三日夜(みかよ)の餅」を食べます。
その後、女性方の親が用意した披露宴「露顕(ところあらわし)」が行なわれ、ふたりの結婚が世間にも認められます。以後、男性は夫となって自由に女性の邸宅を訪ねることができるようになりました。

※新郎は「三日夜の餅」を嚙み切らずに食べなくてはならなりませんでした。

平安時代の文化~宗教・信仰

平安時代の後期には、晩年の紫の上が出家を願ったように、『源氏物語』のなかでは主要な人物のうち、なんと11人もの女性が出家しています。なぜ多くの人物が出家を望んだのでしょうか。

その背景には、当時の宿世(すくせ)思想と死後の極楽往生を願う浄土信仰がありました。
宿世とは前世からの因縁のことで、現世の運命は前世の行ないで定まり、現世の行ないが来世の運命を決めると考えられていました。つまり、現世の不幸は逃れられない運命と思われていたのです。

平安時代の文化:宗教~仏法が衰え悪事がはびこる「末法の世」が来るという思想が流行

しかも11世紀は、釈迦入滅(しゃかにゅうめつ)後2000年が経過するなかで、仏法が衰えて悪事がはびこる「末法(まっぽう)」の世が来ると信じられていたことも重なり、現世から逃れるように、極楽浄土への往生を説いて、来世の幸福を願う浄土教が流行していきます。

10世紀には空也(くうや)が念仏の功徳(くどく)を説き、天台宗の僧・源信(げんしん)が著書『往生要集(おうじょうようしゅう)』で、地獄と極楽のイメージを定着させていました。源信は『源氏物語』において、宇治川に身を投げた浮舟を救った「横川僧都(よかわのそうず)」のモデルとされ、紫式部にも影響を与えています。

平安時代の文化:宗教~法成寺を寄進した藤原道長

大身(たいしん)の貴族のなかには、極楽往生を願い、功徳を積むために仏像や寺を寄進した者もいました。藤原道長も晩年に法成寺(ほうじょうじ)を建立し、死に臨んでは阿弥陀如来の指と自分の指を糸で結び、念仏を称(とな)えながら亡くなっています。

平安時代の文化:宗教~浄土信仰が流行し、次々と建てられた藤原氏の氏寺

平等院(びょうどういん)─── 藤原頼通が創建
鞍馬寺(くらまでら)─── 藤原伊勢人が創建
楞厳三昧院(りょうごんざんまいいん)─── 藤原師輔(もろすけ)が創建
安祥寺(あんじょうじ)─── 藤原順子が発願
元慶寺(がんけいじ)─── 藤原高子が発願
勧修寺(かじゅうじ)─── 藤原高藤(たかふじ)を祖とする
世尊寺(せそんじ)─── 藤原行成が創建
法住寺(ほうじゅうじ)─── 藤原為光が創建
極楽寺(宝塔寺)(ごくらくじ(ほうとうじ))─── 藤原基経が創建
貞観寺(じょうがんじ)─── 藤原良房が創建

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世界最古の長編小説ともいわれる『源氏物語』は、平安時代の宮廷を舞台に展開される主人公・光源氏と女性たちの恋愛模様を描いた物語で、今もなお多くの人に愛読される日本文学の古典です。ですが、全54帖という長編ゆえに最後まで読み通すのは大変困難な作品であることでも知られています。
本書はこの大長編小説『源氏物語』のあらすじと、作者・紫式部の人と生涯を図版と地図を豊富に用いながらわかりやすく解説した『源氏物語』の入門書です。

【第1部】紫式部とその時代
〔第1章〕平安時代の後宮生活
〔第2章〕紫式部の生涯

【第2部】 押さえておきたい『源氏物語』
〔第3章〕光源氏の青年時代―恋の旅路を歩む貴公子
〔第4章〕栄華の頂点―位人臣(くらいじんしん)を極めた光源氏
〔第5章〕宇治十帖―光源氏亡き後の世界

【監修者】竹内正彦

1963年長野県生まれ。國學院大學大学院博士課程後期単位取得退学。博士(文学)。
群馬県立女子大学文学部講師・准教授、フェリス女学院大学文学部教授等を経て、現在、國學院大學文学部日本文学科教授。専攻は『源氏物語』を中心とした平安朝文学。著書に『源氏物語の顕現』(武蔵野書院)、『源氏物語発生史論―明石一族物語の地平―』(新典社)、『2時間でおさらいできる源氏物語(だいわ文庫)』(大和書房)、『図説 あらすじと地図で面白いほどわかる!源氏物語(青春新書インテリジェンス)』(青春出版社、監修)、『源氏物語事典』(大和書房、共編著)ほか。

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