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金沢文庫の誕生

実時の好学ぶりは当時から広く知られていました。政治や法学、農学に至るまで幅広い分野に興味を抱き、長年にわたって和漢のさまざまな書物を収集。京都から蔵書を借り受け、自ら書写するほど熱心に打ち込んだといいます。

こうして集められた書物は武蔵国久良岐郡六浦荘金沢(くらきぐんむつらしょうかねさわ)(現・横浜市金沢区金沢町)にあった実時の別邸に収められました。これが金沢文庫(かねさわぶんこ)の礎とされています。

金沢文庫の蔵書充実と称名寺の発展

金沢文庫の蔵書充実と称名寺の発展
金沢北条氏一門の菩提寺である称名寺(国指定史跡)。写真には、手前に阿字ヶ池(浄土庭園)、向こう岸の左に金堂が見える

この別邸には、1258(正嘉2)年以前に建てられた亡母の菩提を弔うための念仏堂があり、これがのちに称名寺(しょうみょうじ) となりました。

称名寺は、奈良西大寺(ならさいだいじ) の僧だった叡尊(えいそん)や下野薬師寺(しもつけやくしじ)の審海上人(しんかいしょうにん)などを迎え入れて開山。当初から称名寺は金沢北条氏一族の菩提寺としてのみならず、関東の律宗の拠点として伽藍の拡張が行われていきました。

その過程で金沢文庫も築かれていったのではないかと考えられており、正確な創建時期は定かではないものの、実時が晩年となった1275(建治元)年頃とも考えられています。実時が没したのちも、顕時(あきとき)、貞顕(さだあき)、貞将(さだゆき)へと金沢文庫における収集の方針は受け継がれ、蔵書は充実の一途を辿りました。

称名寺

住所
神奈川県横浜市金沢区金沢町212-1
交通
京急本線金沢文庫駅から徒歩15分

金沢文庫は教育機関の役割も果たした

さらに金沢文庫は「武州六浦金沢学校」などとも呼ばれ、教育機関としての役割も果たしていました。

当時は文字の読み書きさえできない武家もいたと考えられており、武家にも教養が必要だと説いた実時の教えに沿って、金沢文庫は一族のみならず、好学の人々にも公開されていました。

金沢文庫の創建に影響を与えた清原教隆

そんな金沢文庫の創建にあたり、実時に多大な影響を与えたのが、清原教隆(きよはらのりたか)です。教隆は、鎌倉幕府に仕えた儒者で、将軍九条頼嗣(くじょうよりつぐ)、宗尊親王(むねたかしんのう)の侍講として学問を教えた人物です。実時も指示を仰ぎ、数々の和漢書を伝授されてもいます。

教隆は幕府の要職に就くいっぽうで、京に上洛しており、朝廷とのつながりも深かったのです。そのため、京に伝わった書を入手し、それを弟子である実時に譲り渡していたようです。金沢文庫に収蔵されている『群書治要(ぐんしょちよう)』や『春秋経伝集解(しゅんじゅうけいでんしっかい)』などは教隆を介して入手したものだと伝わっています。

実時は良質な書を求めるなかで、教隆に写本や刊本などを比べて、本文の異同を確かめたり誤りを正したりする校合も依頼していました。教隆は実時の学問に対する熱意に応え続けた偉大な師なのです。

その後、金沢北条氏は1333(元弘3)年の鎌倉幕府滅亡とともに消滅しましたが、称名寺が管理を引き継ぎました。当時の蔵書の一部は散失してしまったものの、現在でも古書約2万冊、古文書約7000通が収められています。

金沢文庫は、700年以上もの時を経て現存する日本最古級の私設図書館といえるでしょう。

金沢文庫の創建に影響を与えた清原教隆

金沢文庫(称名寺)は、京急・金沢文庫駅からは歩いて約12分。シーサイドラインの海の公園南口駅からは同15分の立地。

「金沢八景」とは

「金沢八景」とは

現在は駅名としても知られ、大学や高校が集積する文教地区を形成する金沢八景。そもそもこの名称は、かつて武蔵国久良岐郡六浦村と金沢村に見られた景色を指します。いつ頃からこう呼ばれているのかは明らかになっていませんが、1614(慶長19)年に刊行された『名所和歌物語』には、中国の名勝・瀟湘八景(しょうしょうはっけい)になぞらえて、金沢八景の名が記されています。

現在は都市化されていますが、かつては入り海があり、それを取り巻く岬や島々、丘陵が美しい景観を織りなしていました。歌川広重らが浮世絵に描いたように、江戸時代の庶民からも深く愛され、大山詣りや江の島、鎌倉と並ぶ神奈川の代表的な観光地でした。

神奈川県立金沢文庫

住所
神奈川県横浜市金沢区金沢町142
交通
京急本線金沢文庫駅から徒歩12分
料金
大人250円、20歳未満・学生150円、高校生100円、中学生以下無料、特別展料金あり(65歳以上入館料100円、障がい者無料)

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