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大山詣りは江戸庶民に大人気だった!

大山詣りは江戸庶民に大人気だった!
かつても獅子山といわれる石造物群があったといわれるが、関東大震災で流失。写真は「平成の大山獅子山」といわれる

江戸時代には、庶民の旅行は禁じられていたものの、信仰目的(伊勢詣り、富士詣りなど)であれば許可されたため、多くの参詣者が大山を訪れるようになりました。

とくに江戸庶民のあいだでは、商売と博打の御利益があると信じられたことも、大山詣りの人気に拍車をかけました。宝暦年間(1751~1764年)には、年間20万人が来山したという記録も残っています。

大山詣りの人気の理由

大山詣りが人気を博した理由としては、江戸からの距離的な近さも挙げられるでしょう。 江戸から歩いて2~3日で参拝できることから、行楽地として重宝されました。

大山詣りの主要道「矢倉沢往還」

江戸から大山詣りをするルートには複数ありますが、もっともポピュラーだったのが矢倉沢往還(やぐらざわおうかん)です。

矢倉沢往還は江戸の赤坂御門を起点とし、渋谷、三軒茶屋、二子玉川、溝の口、荏田、長津田、下鶴間、国分、厚木 ……と、ほぼ現在の国道246号と同じルートを経て、厚木から伊勢原、大山へと至ります。

東海道の脇街道であり、さらに西へ進むと矢倉沢関所があったことから矢倉沢往還と名づけられました。しかし、江戸時代中期以降には江戸から大山への参詣客が多く利用したことから、大山街道と呼ばれるようになります。

大山詣りの主要8道

大山詣りの主要8道

江戸の赤坂御門を起点とする矢倉沢往還は、渋谷、三軒茶屋、二子玉川、溝の口、荏田、長津田、下鶴間、国分、厚木、伊勢原などを経て大山に至る約70㎞の参詣道。これはおおむね国道246号に相当し、また東急田園都市線(三軒茶屋~長津田付近)や小田急線(国分~愛甲付近)が同様のルートを走っています。

ほかに厚木往還(八王子通り大山道)など、各地から大山までの道のりにはいくつかの主要道がありました。

大山詣りの独特なルールは源頼朝がルーツ!

なお、この大山詣りには独特なルールがありました。参詣に向かう前に、まず隅田川で水垢離(みずごり)をしたのです。そして翌朝、白の浄衣を着用し、木刀(白木の太刀)を携行して江戸を発つのでした。

なぜ木刀をもっていくのかというと、源頼朝が大山阿夫利神社に戦勝祈願の太刀を奉納したことに由来します。参詣者は木刀を神社に奉納し(納め太刀)、代わりに別の木刀をもらい、もち帰った木刀を自宅の神棚に飾りました。

やがて大山詣りが浸透してくると、江戸っ子のあいだでは派手な太刀を奉納するのが粋であるとされ、なかには6mもの太刀を納めた強者もいたといいます。

大山詣りは江戸の町人文化として浸透し浮世絵や古典落語にも!

ちなみに、かつて大山阿夫利神社の奥の院は女人禁制であったことから、大山詣りは江戸の男衆のあいだで盛んでした。大山参詣を終えた男衆は、藤沢宿などで一泊し、博打や女遊びをしたり、江の島や金沢八景を観光したりと、参詣にかこつけて大いに羽を伸ばしていたのです。

大山詣りのようすは、数々の浮世絵に描かれ、また古典落語「大山詣り」の題材にもなりました。

このように大山詣りは、ただ参詣に終始するものではなく、江戸時代の町人文化として広く浸透していたのです。それゆえに、2016年には文化庁が認定する日本遺産に選出されています。

大山阿夫利神社

住所
神奈川県伊勢原市大山355
交通
小田急小田原線伊勢原駅から神奈中バス大山ケーブル駅行きで28分、終点で大山ケーブル阿夫利神社行きに乗り換えて6分、終点下車、徒歩5分
料金
無料

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