赤穂の塩が人気ブランドになるまで
赤穂の塩は、江戸時代の二大消費地であった江戸と大坂で「全国屈指の高品質」と評判を呼び、ブランド塩となります。では、どうして赤穂は全国一の塩の産地となったのか、その秘密を解き明かしていきます。
赤穂の塩は塩田として最適な地質と地形からなる
赤穂は、もともと年間を通じて晴れの日が多い温暖な瀬戸内式気候です。
中世になると千種川の洪水により中国山地から流れ出た火成岩質のきめの細かい砂が千種川河口部に堆積し、三角州が形成されました。遠浅の海と細かな砂は塩田に最適だったため、小規模な塩田がつくられるようになります。
近世には、播磨国の領主となった池田氏が塩づくりを推し進め、千種川河口の西に大規模な塩田を開きました。製塩事業が本格化したのは、1645年に浅野長直が初代赤穂藩主として赤穂に入封して以降のことです。
赤穂の塩は「入浜式塩田」によって生産高が向上
浅野家のもと、大規模な干拓が行なわれ、塩田面積は池田氏時代の倍以上になります。このとき、浅野家が導入したのが、潮の干満差を利用し、堤防と水路を使って海水を効率的に塩田に取り込む「入浜式塩田」(いりはましきえんでん)と呼ばれる最新の塩田技術です。干満差の大きい瀬戸内海に最適な製塩法でした。
入浜式塩田は、海水を塩砂に散布する手間が省かれるため労力は大幅に軽減され、製造時間も短縮されます。これにより赤穂の塩の生産高は飛躍的に向上しました。塩は塩廻船(しおかいせん)に載せられ、諸国へもたらされました。
浅野家は塩田によって得られた莫大な利益で赤穂城や城下町を拡大し、整備しました。浅野家断絶以降も、新たな藩主が製塩技術を引き継ぎ、塩田を増やしていきました。
また、入浜式塩田は「流下式塩田」(りゅうかしきえんでん:専用装置から海水を滴下させ、塩分濃度を高める製塩法)へ転換するまでの約300年間にわたって日本の主要な製塩法となりました。
赤穂の塩は自然環境と製塩技術が相まって全国的ブランドに!
快晴が多く温暖な「気候」、三角州や細かな砂といった「地形・地質」、遠浅の海や潮の干満差などの「自然環境」。これらの条件と製塩技術が相まって、赤穂は質・量とも全国屈指の塩の産地となったのでした。
旧赤穂上水道は日本三大上水道の1つ
江戸開府のころの赤穂では、井戸を掘っても海水しか湧き出てこなかったため、飲料水の確保が難しかった。そこで池田家の代官・垂水半左衛門(たるみはんざえもん)が指揮し、1616年に完成させたのが旧赤穂上水道です。高雄の岩を掘り抜いて切山隧道(きりやまずいどう)を築き、千種川の水を取水。ここから導水路を引いて7km南の赤穂城下に水をもたらしたのです。
城下に入った上水道は地下を網の目のように走り、城内や町家へ給水されました。各戸給水としては、イギリスのロンドン市街より古いといわれています。
赤穂上水道は、江戸の神田上水(1590年完成)、福山藩(現在の広島県福山市)の福山上水(1622年完成)と並び、近世に完成した本格的な上水道という観点から「日本三大上水道」と呼ばれています。なお、切山隧道は現存しており、旧赤穂上水道の一部は農業用水路として使用されています。
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